「特定卸としか取引しない製薬企業」そう聞くと、これまでは“武田薬品工業”としか思い浮かんできませんでした(今は武田テバや千寿など)。
2023年4月からは、GSK(グラクソスミスクライン)も、ほぼアルフレッサのみの取り扱いになります。メディパルに加えスズケンも基本的に取り扱えなくなります。
もし何か災害があった際、その場所で医薬品を流通できる体制を整えているのが、特定の卸、例えばスズケンや東邦HDだけであったら。
スズケン、東邦HDの両卸が、健康に欠かす事のできない医療用医薬品の一部、つまり武田薬品工業の薬を取り扱えない現状(武田薬品工業の姿勢)は極めて疑問に思えます。
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この問題は武田の過去からの問題ですが、ただここ数年で、特定卸としか取引をしない、そういったケースが増えてきたように思えます。そこにはある理由が存在します。
特定卸とのみ取引きする製薬企業の意図
まず避けては通れない部分ですから、少し武田薬品工業についての経緯です。
武田薬品工業について
武田薬品工業については、簡単に言えば、メディパルHDの筆頭株主が武田薬品工業であることからも想像がつくように、昔からの商習慣、資本上での結び付きが強く関係している事が一因です。
2009年、当時のメディセオとアルフレッサが合併合意書まで取り交わしましたが、公取による審査が長引くという理由により解消しました。この合併も、メディセオと東邦などという形では話しすら出なかったことが想像できます。
2013年と少し古いものですが“跡見学園女子大学マネジメント学部紀要の第15号”に、医薬品卸と製薬企業の分析がなされていますので、興味のある方はご一読ください。
※本来ならばこれをかみ砕いて説明したいところですが、今回の記事の意図とは異なる事と、パクリ記事認定されるだけですのでご容赦ください。
製薬企業・医薬品卸双方にとってメリットのある独占取扱い
C型肝炎治療薬はじめとし、ここ数年で特定の卸としか取引できない薬が散見されるようになりました。
医療機関・薬局にとっては迷惑以外の何物でもないのですが、これには厳しい経営環境にさらされている、製薬企業・医薬品卸特有の事情が存在しています。
医薬品卸にとってのメリット
現在、医薬品卸は、価格と言う部分でしか差別化できなくなりつつあります。
少し前までであれば急配や、配送回数を増やすなど流通面での工夫は見られましたが、それが全体の売上には結びつかず、都合よく利用されて終わりであった部分がありました。
つまり苦労やコストに見合うだけのリターンを得る事が出来なかったという事になります。
(※ただ個人的には、医薬品卸も医療を担うのであれば土日の供給は当たり前にして頂きたい、できないのであれば医療という言葉を掲げないで欲しいと思っています)
もちろん上述のように、日本の古くからの商習慣により武田薬品を取り扱う卸は限られてはいるものの、少なくとも外資系メーカーの医薬品であればどの卸も取り扱う事ができ、差別化する事は出来ていませんでした。
そのような中で、特定の製薬企業の製品のみを取り扱う事ができればとても大きなメリットを生む、つまり差別化する事ができます。それは医療機関などの新規開拓という部分で特に大きな恩恵を受ける事ができます。
製薬企業にとってのメリット
これは少し想像しただけでは想い浮かびそうもありません。
むしろ、全ての医薬品卸が取り扱ってくれた方が、よりその企業の医薬品使用量が増えるとも考えられるからです。
ここには短期的な利益というよりは、継続的な利益、という部分が多分に絡んできます。つまり「薬価の維持」という側面です。
薬価改定時は、実際に取引される価格が調査により反映されます。薬局でいえば未妥結減算と関係してくるものです。
薬価が100円であったとしても、実態としては卸間同士での価格競争により30円で取引きされているようであれば、それに見合った薬価へと改定されてい事になります。
つまり取扱い卸を限定することで、過度な価格競争に製薬企業が巻き込まれるという事を防ぐ事ができ、その医薬品の薬価を守る事ができます。もちろん、その価格が適正かどうかは別ではあるものの、防衛線を張る事ができるのです。
製薬企業が取扱い卸を限定してしまう事、それは卸にとっては差別化、メーカーにとっては価格維持という、双方にとってメリットのある取引となっているのです。
参考文献:薬価の経済学
出版:日本経済新聞出版社 (2018/7/19)